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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)1961号 判決 1988年1月19日

反訴原告

藤井邦男

反訴被告

株式会社日産観光サービス

ほか一名

主文

一  反訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  反訴請求の趣旨

1  反訴被告らは各自、反訴原告に対し、金二九一万六三三三円及びこれに対する昭和六一年四月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  反訴請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六一年四月一九日午後七時三〇分頃

(二) 場所 大阪府豊中市新千里南町一―五先路上

(三) 加害車 反訴被告松本美和(以下「反訴被告松本」という。)運転の普通貨物自動車(なにわ四四わ六三六号)

(四) 被害車 訴外岸上有運転、反訴原告同乗の普通乗用自動車(なにわ五五わ九七八号)

(五) 態様 加害車が被害車の前に割り込んだため、被害車が急停車した。

2  責任原因

反訴被告らは、次のとおりの理由により、本件事故による反訴原告の損害を賠償すべき義務を負う。

(一) 運行共用者責任(自賠法三条)

反訴被告株式会社日産観光サービス(以下「反訴被告会社」という。)は、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

(二) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

反訴被告松本は、加害車を運転中、被害車を停止させようとして故意に被害車の前に割り込んだことにより、本件事故を発生させた。

3  損害

反訴原告は、本件事故により左肩を被害車の車体内側に激突させたため、次のとおり受傷して損害を被つた。

(一) 受傷等

(1) 受傷

左肩鎖関節脱臼

(2) 治療経過

昭和六一年五月一〇日から同年八月一一日まで鳥潟病院に通院(実通院日数九日)

(二) 治療費 三万六九四〇円

(三) 休業損害 二七六万六三三三円

反訴原告は、本件事故当時株式会社河満工業に鳶工長として勤務し、一か月四三万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和六一年四月一九日から同年一〇月三一日までの六か月と一三日休業を余儀なくされ、その間二七六万六三三三円の収入を失つた。

(四) 慰藉料 一二〇万円

4  損害の填補

反訴原告は、本件事故による損害につき、反訴被告らから一〇八万六九四〇円の支払を受けた。

5  反訴請求

よつて反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件事故発生の日である昭和六一年四月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。)を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2の(一)の内、反訴被告会社が加害車の所有者であることは認めるが、その余は争う。

同2の(二)の内、反訴被告松本において、被害車を停止させようとしてその前に割り込んだ過失があることは認める。

3  同3の内、(一)の(2)は認めるが、その余は否認する。

反訴原告は、本件事故により何らの傷害も受けていない。反訴原告は、昭和五八年一二月二八日にも自動車を運転していた他の自動車と衝突し、左肩鎖関節脱臼等の傷害を受け、右同日から昭和五九年一二月二八日まで入院及び通院により治療し、自賠責保険の調査事務所において一二級六号、一二級一二号、一一級七号の併合により一〇級の後遺障害の認定を受けており、本件事故後の治療は右既往症に対する治療であつて本件事故との因果関係はない。

仮に、反訴原告が本件事故により受傷したとしても、その症状は就労に影響を与えるものではない。

4  同4は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

反訴請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  運行供用者責任

反訴請求原因2の(一)の内、反訴被告会社が加害車を所有していた事実は、当事者間に争いがなく、これによれば、反訴被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことを推認できるから、反訴被告会社は自賠法三条により、本件事故によつて反訴原告が受傷したことが認められる場合には、これによつて反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。

2  一般不法行為責任

反訴請求原因2の(二)の内、少なくとも反訴被告松本において被害車の前に割り込んだ過失のあることについては、当事者間に争いがないところであると考えられるから、反訴被告松本は民法七〇九条により、本件事故によつて反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  反訴原告の受傷の有無

反訴原告が本件事故により受傷したか否かにつき争いがあるので、この点につき判断するに、成立に争いがない甲第二ないし第一一号証、第二〇、第二一号証、第三九ないし第四七号証、第五〇ないし第五三号証、第六〇ないし第六二号証、第六七、第六八号証並びに反訴原告の本人尋問の結果(後記の採用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実が認められ、反訴原告本人尋問中の右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用し得ず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

1  反訴原告は、昭和五八年一二月二八日普通乗用自動車を運転中、他の普通乗用自動車に右側面から衝突されるという交通事故(以下「前回事故」という。)に遭い、左肩鎖関節脱臼、右膝挫傷、第一、第二腰椎圧迫骨折等の傷害を受け、石切生喜病院において右同日から昭和五九年一二月七日までの間に入院四七日間、実通院日数一〇一日に及ぶ治療を受け、左肩鎖関節脱臼につき自賠責保険の調査事務所において一二級六号の後遺障害と認定されたが、その後も他の病院などで治療を受け、昭和六〇年一〇月七日の時点においても吉田外科病院で左肩の運動時痛、運動制限を訴えていたこと

2  反訴原告は、昭和六一年三月二四日レンタカー業を営む反訴被告会社から二四時間以内に返還する約束で被害車を借り出したまま、時間内に返還することなく無断で被害車を乗り回すなどしていたため、本件事故の前日に反訴被告会社から電話で返還を請求され、本件事故当日の午前中に同年四月二五日まで借りたい旨申し入れ、引き続き被害車を使用していたところ、反訴被告会社でアルバイトしていた反訴被告松本が、右のような電話でのやり取りについて連絡を受けを前に被害車を発見し、これを停止させてその搭乗者から事情を聴取しようと考えて、時速約六〇キロメートルで走行していた被害車の右横を時速八〇から九〇キロメートルで追い抜き、その前方に二回切れ込んだ上減速したため、被害車はハンドルを左に切り急ブレーキをかけて停止したこと

3  反訴原告は、本件事故後も昭和六一年四月二五日まで被害車を仕事などに使用した後、反訴被告会社にこれを返還したが、その使用料を支払つていないこと

4  反訴原告は、本件事故から三週間後の昭和六一年五月一〇日から同年八月一八日まで鳥潟病院に通院(実通院日数九日)し、左肩鎖関節部痛を訴えて左肩鎖関節脱臼と診断され、レントゲン写真を撮つたほか湿布や投薬による治療を受けたが、同病院の医師に対し前回事故による同一部位の後遺障害については申告せず、また保険会社の担当者に対しても同様に申告しないで補償を受け、同年六月五日の警察での取り調べの際にも、「今回の事故があるまでに左肩の脱臼等はしたことは一度もありませんでした。」と虚偽の供述を行つていること

反訴原告は、その本人尋問において、本件事故の前には左肩は痛くはなかつたところ、本件事故の際助手席に同乗していてその衝撃により運転していた訴外岸上とぶつかり、その反動で反対側にぶつかつたため、左足、左肩が痛み、寝返りも困難で、重い物は持てず、腕を上げることも困難であつたが、引つ越しや妻の出産のための入院などで忙しくて、すぐに病院へ行けなかつた旨、及び前回事故の際の石切生喜病院でのレントゲン写真では、骨が斜めに一センチメートルくらいしか離れていなかつたのが、本件事故後の鳥潟病院でのレントゲン写真では水平に真つすぐ三センチメートルぐらい離れていた旨供述しているが、右引つ越しにつき具体的にどこからどこへ転居したのかとの質問に対しては、供述を拒否し、成立に争いのない甲第七九号証によれば、住民登録上も昭和六〇年三月三一日から昭和六二年九月二一日現在まで住所に変動はなく、右引つ越しについての供述は極めて疑わしいと言わざるを得ないし、また成立に争いのない乙第四号証によれば、鳥潟病院の医師が前回事故後と本件事故後のレントゲン写真を比較して、その脱臼の程度は同じくらいで区別は困難であるとの意見を述べていることが認められるから、この点に関する反訴原告の右供述も採用しがたいものである。

前掲乙第四号証によれば、鳥潟病院の医師が、反訴原告の症状につき、「以前に脱臼があり再度受傷により同部に疼痛を生じたものと考える。」との意見を述べていることが認められ、前記認定の本件事故の態様からすれば、反訴原告が本件事故により再度左肩を打撲して疼痛が生じた可能性を否定できないと考えられるが、本件事故から三週間を経過した後に治療を始め、治療が遅れた理由の一つとして挙げる引つ越しの事実に疑問があること、担当医師、保険会社の担当者及び取調の警察官に対し、前回事故の際の同一部位の既往症について申告しないか、あるいは虚偽の事実を供述していること、前記のとおり本件事故後の反訴原告の症状については、前回事故による同一部位の既往症と区別でき得る他覚的所見は認められず、専ら反訴原告の愁訴のみによつて認められるものであること等の事実を総合すると、反訴原告の本件事故後の治療経過には不自然な点が見受けられる上、その供述には疑わしい点や客観的事実に反する点が多々認められ、その信用性は極めて低いというべきであり、従つて、前回事故の際の同一部位の既往症とは別に、反訴原告が本件事故によつて受傷したものと認めるには足りないといわざるを得ない。

四  結論

よつて、その余の点につき判断するまでもなく、反訴原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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